editorial : roast

もう一〇月なんだ。九月じゃないんだぞ。
これは二〇歳の頃に読んだ、
W.サローヤン著「ワンデイ・イン・ニューヨーク」の中のフレーズで
一〇月になったばかりの頃に思い出してしまう。

新潮文庫のテキストで言うと全三二六頁で終わる小説の、
長い前振りを読んで、やっと最後の最後、三一三頁から、
サローヤンが言いたかったことが書いてあると僕は思う。
その言葉は二十五年近く経った今も僕の脳裏にくっきりと刻まれていて
ことあるごとに反芻している。

歩くんだ。それがなすべきことのすべてだ。
どこへであろうと、とにかく行くこと。
誰にでも、そこにいる誰であろうと、話しかけること。
それが筋(プロット)を生みだす

これを唐津のフリーペーパー「ROAST」で形にしてみたいと思った。
極めて個人的な感動や思いを共感に変える・・・、そんな試みが「ROAST」だった。
具体的に言うと、「ROAST」は、あくまでも『情報』を扱うのであって、
決して『データ』を扱う冊子ではないという考えだ。

僕がそう考えられたのは、一万人に伝わるのではなく、一万人中一〇〇人が唐津を好きになる冊子をつくりたいという、タウンマネージャーでRoots代表である佐藤直之氏の明確な「方向性」があったからである。

地域振興が成功するためには、地域おこしの担い手が現れる必要がある。その担い手としてしばしば出る言葉が「よそ者、若者、バカ者」である。
これは、地域づくりの担い手としてどんな人が必要かという議論の時に、①地元の人より、外からやってきた人が新たな視点で地域を盛り立ててくれることが多い(よそ者)、②若い人たちが活発に活動することが不可欠だ(若者)、③多少常識から外れた人でも行動力のある人が何かを始めることが必要だ(バカ者)、ということを簡潔に表したものである。

僕らは全員唐津出身ではない「よそ者」である。
カメラマンは熊本出身だし、佐藤さんも大阪出身で福岡で生活しながら唐津に通っている。そうした人的な環境から「ROAST」は福岡市在住の「わたし(=よそ者)」という人物の視点で取材・編集した極めて個人的でユニークな冊子だったと思う。情報は大変大雑把で、詳細地図は絶対に掲載しない。

歩くんだ。それがなすべきことのすべてだ。
どこへであろうと、とにかく行くこと。
誰にでも、そこにいる誰であろうと、話しかけること。
それが筋(プロット)を生みだす

これを実際読者に体験させたいと思ったのだ。それが情報を発信することだと僕は思う。僕らの仕事は切っ掛けを作るのであって、行きや帰りの心配をすることではない。道に迷ったり、気になったことは現地の人に聞けばよい。美味しそうに感じた写真は味を伝えるものではない。詳しいメニューはその店に行けば分かる。旅の楽しさや感動は「わたし」の追体験からは絶対に生まれない。情報誌はその旅の醍醐味を読者から決して奪ってはいけないのだ。

写真キャプションは「わたし」のつぶやきと定義し、Twittterと同じ140文字に設定した。(第二号は少し文字数を増やしたが、それでも160文字程度である)
140文字の設定について、米Twitter創業者のジャック・ドーシー氏は大学時代、図書館で日本のわびさびについての本を読み、物事を単純化し、シンプルにすると本質が見えるという美意識に共感したのだという。日本の文化に由来していたというのは、何とも誇らしいことである。

”情報が洪水のようにあふれている中で、メッセージを絞り込むことは重要になってくる。大げさかもしれないが、世界は140文字で変えることができると、Twitterは思っている”

先日、画家の牧野伊三夫さんと電話で話していると「この夏、唐津に行ったんだよ」と言った。牧野さんは一泊のつもりで唐津に行って、虹の松原の近くの国民宿舎に泊まった。しかし、行ってみるとあまりにも気持ちが良かったから三泊して、その間、浜辺に出て流木やゴミやなんかを拾ってきてオブジェを作って過ごしたようで、牧野さんが帰る頃には砂浜に巨大なオブジェが完成したそうだ。作者不詳の謎のアート作品があの浜辺にあるのだ。「何もしないで、心の赴くままに唐津を愉しんだよ」と牧野さんは言った。僕らが「ROAST」で伝えたかった唐津は、まさにそんな唐津だ。

Have you ever seen the sea?( 君は海を見たか? )という言葉は、倉本聰脚本のドラマのタイトルから拝借した。
一流企業のエリートサラリーマン・増子一郎は早くに妻を亡くし、一人息子の正一、妹の弓子と暮らしている。正一の世話は妹に任せきりで、家庭など顧みない仕事人間の一郎だったが、正一がウィルムス腫瘍で余命3ヶ月と医師に告げられてしまう。息子の病気をきっかけに、一郎は父と子のふれあいを取り戻そうとするという内容だった。海中公園(海中展望塔)の建設に心血を注いでいるのだが、「モーレツ社員が自分の息子に海すら見せていなかった悔恨」がテーマとなっている。

CL:karatsu roast
PR:佐藤直之、佐藤詠子
AD.D:サダマツシンジ
WR:岡本仁( ランドスケーププロダクツ )、定松千歌、サダマツシンジ
CA:白木世志一( ワイトリー写真事務所 )
AW.Logo:内田洋一朗( PLACER WORKSHOP )