考える>伝える>編集する
コミュニケーションを専門領域にグラフィックデザインの仕事に携わって三〇年を迎えようとしています(二〇一八年時点)。近年、わたしたちは、自分の目で見たこと、聞いたこと、感じたこと、考えたこと、そして、伝えるべきことを誌面に落とし込んでいく「編集」という分野に、デザインの意義と可能性を強く感じています。取り分け、情報+メッセージを伝えるテキストによる「言葉の表現」は、極めて個人的な感性や視点、考えを反映させ、独自性を盛り込むことができる最も重要な要素だと考えており、殆どの場合、私たちはライティング(文筆)まで行うことケースが増えました。それに加え、近年では、撮影も自社で行っています。伝えたい内容を遵守し、極めて個人的なフィルターを通すことが「編集」という仕事の醍醐味だと感じています。また、そこにこそ、発信する情報の個性や品質の差異が出るのだと思います。
会社名:THIS DESIGN 株式会社
設立年月日:2001年5月15日
所在地:福岡県大牟田市本町 1-2-19 中原ビル 1F(in the past™ 内) 〒836-0046
電話:0944-88-9653
ファックス:0944-88-9683
メール:this@thisdesign.jp
プロジェクト:
つくる たべる かんがえる PERMANENT ( 2012~ ) http://permanentbros.com
スタジオ、ショップ・ギャラリーの運営:
in the past™ ( 2017~ ) https://inthepast.jp
つくる、たべる、かんがえる
食べることを考える小冊子『PERMANENT』の発行
わたしたちは「インディペンデント・アンド・クオリティ・オブ・ライフ」を活動の軸に、二〇一二年から、食べることを考えるリトル・プレス『PERMANENT』を発行しています。きっかけとなったのは、二〇一一年三月十一日。
日本を揺るがした東日本大震災による未曾有の災害は、私たちの人生観や価値観に影響を与える大きな出来事でした。そして、いまだ福島第一原発事故の脅威は続いています。
そんな中、わたしたちは人間が生きる上で最も根源的な営みの一つである「食べること」に考えが及ぶようになりました。わたしたちが着目したいのは、例えば、普通の人の食卓の風景。毎日の食卓は食の基本です。なぜなら、何が食べたいか、どの店で食材を選ぶか、どのように調理するか、どの食器で食べ、どんなふうに時間を過ごしたいか、それら全てを自分の意志で決める場所だと思うからです。わたしたちは津々浦々の食卓で、食べることについての話や、調理の様子などを取材し、食卓の風景から、あらためて「食べること」について考えてみたいと思います。
また、わたしたちは、自分の身体の中に入れるものが、どこで、どうやって育った食材かをしっかりと把握し、大切に無駄なく食べたいと考えています。だから、山や里、海での生産や加工の現場、そこに携わる人々に会いに行き、その土地の風土で育つ食材、食べ方など、わたしたちがこれまで知らなかったり意識しなかった、食べもののいろいろを再確認し、一人でも多くの方と共有していきたいと思っています。その他、食を起点に、さまざまな視点から「食べること」への認識を肥やす情報を紹介していきます。今だからこそ「食べること」の意味、楽しさ、大切さ、そして、未来のために考えなければならないことなどを、あらためて、「食」の中から探っていきたいと思います。
in the past™
出来事と経験を肥やす場所
イン・ザ・パストは大牟田市本町にあるアーケードに面したビルの一階の店舗をリノベーションした多目的スタジオです。基本的には、デザインの仕事を行うホーム・オフィスですが、例えば、わたしたちが発行しているリトル・プレスの実践的な場として、食に関するワークショップを行ったり、期間限定のギャラリーやポップアップストア、トークショーやライブといったスポットのイベントを開催するなど、パブリックな空間としても活用していく予定です。ここは、約十五年前まで、両親が調理器具の専門店と暮らしの道具や雑貨、衣類などを販売する生活雑貨店を営んでいました。建物にある大きなショウウィンドーは当時の名残です。
また、ビルの二階には、「コーヒーサロンはら」という喫茶店がありました。お店のオーナー、上野由幾恵さんは、約三〇年もの間、日本フィルハーモニー交響楽団を大牟田に招き続けています。街に「音楽を愛する文化を根付かせたい」と、大牟田文化会館の開館を機に「大牟田日本フィルの会」を設立、事務局長として招聘を実現させました。
届けたいのはオーケストラが奏でる「生の音」。年に一度の公演のため、スポンサー募集に宣伝、人材手配にとボランティアの方と一緒に現在も精力的に活動されています。はら店内でも月に数回、サロンコンサートが開かれ、窓を開けているとグランドピアノの美しい旋律が聴こえました。およそ築四〇年になるこのビルには、そんな文脈が流れています。
イン・ザ・パストは、〝過去には〟という意味の言葉です。過去とは、単に過ぎ去った時間をいうのではなく、様々な〝出来事と経験〟を集積した時間を指しています。学ぶべきもののほとんどは〝過去〟の中にあり、わたしたちは〝過去〟を今に呼び出し〝未来〟をつくっています。
イン・ザ・パストが、この街とどんな関係を築いていくのだろう、と、ときどき散歩をしながら考えることがあります。わたしたちがやろうとしていることが、どれほどの価値があるのかは分かりません。けれども、好奇心と直感に従い、ここに集う人たちと一緒に〝出来事と経験〟を肥やせる機会を、笑顔で過ごせる時間を一つでも多く持つことができたら幸いです。