文字が好きだ。子供の頃から変わらない。
ハッキリと文字の魅力に気づいたのは文庫本で使われていた字体であった。
岩波書店や福音館書店のDTPや印刷を手がけている印刷会社が開発した「精興社書体」(もちろん当時は書体の名前など知らない)。その文字の雰囲気で言葉を打ち出してみたかった。地元の電器店で3行しかプレヴューできないワープロを買って、詩を書いた。感熱紙で出力したあと、モノクロコピー機で複写した。コピー用紙に定着したトナーが独特な艶消しのテクスチャを醸していて、飽きずにずっと眺めていた。
そんな訳で、デザイナーになる前から文字が好きだった。
前置きが長くなった。さて、つい3年前までは、文字(ロゴタイプ)を製作する際はスケッチをしていたが、今はほとんどイラストレーターでいきなり文字を作ることが多い。唐津の映画館「演屋」の場合もそうだ。エレメントと呼んでいる「文字を構成する要素」を最初に作って、それを組み合わせてデザインを立ち上げていく。
上は、最初に「演屋」の話を聞いてすぐにつくってみたもの。江戸文字…特に寄席文字寄りの字体。圓樂の広告を参考にして、自分なりに解釈したもの。漢字の場合だと「しんにょう」や「さんずい」など難しくて敬遠したい部首があるが、だからといって、そこを避けるようなデザインはしたくない。
ここに至った課程は省く。2回目の提案がこちら。
カタカナ表記のロゴタイプは、自分でも結構気に入っている。これもいきなりイラストレーターでデザインを始める。やりながら調整という感じ。昔は確認のために何枚もプリントアウトしたけど、今はそういうこともなくなった。(形が)決まったな、と思ったら一枚プリントアウトして、逆さまにしてしばらく壁に貼っておいて眺めている。
さて、2回目のボツを食らい、話し合いを進めていると先方から手描きのスケッチがいくつか出てきた(この辺りになると、お互い言いたいことを言えるようになってて、まさにいいものを作る上で良い状態)。
上の画像はその中の一つ。映写機は「唐津シネマの会」を継承するモチーフだ。情報をうまく整理していけば形になりそうだと思い、落書きを元にデザインを進めた。同時に様々な角度から破綻のないように意味づけ(ロジックを固める)をしていった。最終的には、2つのデザインでブラッシュアップを行った(2枚目の図像 映写機のレンズから光を投影している線があるが、最終的には線を取った)。演屋のロゴは、複数のオーダーを聞きながら足し算のデザインを行った。ただ、足したのではなく整理をしながら。この「整理・整頓」がデザインの正体だ。