THIS DESIGN

TEXT

HELLO GOODBYE, KENTA NAKAMURA

HELLO GOODBYE
KENTA NAKAMURA
2019

Art Direction, Design, Article : Shinji Sadamatsu
Photograph : Kenta Nakamura
https://inthepast.jp/articles/119/

Kenta Nakamura Hello Goodbye に寄せて
若しくは「写真の読み方」として ー text : Shinji Sadamatsu

本展「Kenta Nakamura Hello Goodbye(中村健太『ハロー、グッバイ。』)」は、昨年の五月に逝去した中村の祖母をストーリーの軸に据え、現在・過去といったタイムラインとは関係なく、既に起きた「出来事(=写真)」を新たな観点でレイアウトし、中村らしい方法で「祖母の死」を俯瞰した構成となっている。

一般的に「死」はネガティブな印象がある。しかし中村は「生」と「死」は「輪(円)」のような関係であり、祖母の死を「悲しい出来事」「縁起の悪いこと」といった一方向では測れないものだと考えている。本展のタイトル「Hello Goodbye」は、相対する言葉を繋げることで、中村の死生観を表現したものだ。

写真は、すべて「過去」に起きた出来事を記録したものである。そして…例えば、デジタルカメラの場合…写真家が見たものは、シャッターを切った瞬間、メモリに保存される。メモリに記録できる画像は、画像の解像度にもよるが、膨大な量にのぼる。そして、今回のような展示会を行う場合、写真家は、過去に撮った写真を現在に呼び出し、時間をかけてテーマに沿った写真をセレクトしている。

それから、会場のスペース、展示する写真点数、プリントの大きさ、横に並べる写真との関係性なども検討していく材料になる。また、場合によって写真は、本人が撮った時とは別の意味を持つこともある。本展の写真の中にも、同列に並んでいながら、撮影した時間、場所、記録した事柄が違うものが混在しています。中村は、写真同士の「韻」を踏むように、あるいはDJ然として異なる音楽を繋ぐように「再編集」し、全体のストーリーを組み立てました。

写真を見つめる時、自分自身(あなた)の経験を基準にして、写真家は、どういう理由でシャッターを切ったのか? どんな場所か? それはいつ頃だったか? なぜ、その写真をセレクトしたか? 隣合った写真とどう関係しているのか? …など、頭の中にあらゆる疑問を投げかけながら写真を読み解いてみてください。
写真を読むとは、「見えていない部分」を観ることですし、それは自分自身との対話です。もちろん正解はありません。作家自身もまだ思考の途中なのです。
この展覧会で、あなたが、何か新しい感じ方や考え方に出会ったり、新しい言葉を獲得できたなら、私たちにとってもとても意味のあることだと思います。

※上記の文章は展示会場にて掲示したものです。