David Hockney
先日、Plateauxで髪を切ってもらいながら、蒲原くんから素晴らしいニュースを聞いた。それで、来年どんな年になるかは分からないけど、きっといい年になるだろうと思った。なぜなら来年の夏、東京都現代美術館で、28年ぶりとなるディヴィッド・ホックニーの大規模な展覧会が開催されるからだ。
34年前、僕は地元の本屋さんでバイトをしていた。何気なく手に取った美術手帖に、「ホックニー画集 ひとつの回顧 DAVID HOCKNEY A RETROSPECTIVE(David Hockney A Retrospective)」(1988)というホックニーの回顧展を収録した図録の出版広告が載っており、そのビジュアルに使われていた、プールで泳ぐ人を見つめる男性を描いた作品「Portrait of an Artist」に目が止まった。一色刷りのとても小さな広告だったけど、これが美しい絵だということはすぐにわかった。僕は早速、本を注文した。それ以降、ホックニーの絵は僕の人生の一部になった。
それから5年後。僕は福岡に出てデザイン事務所で働いていた。
1993年の冬のある日。10代の頃から聴き続けている大好きなアーティストのライブを観るために友人と二人で小倉にいた。早めに到着したのは、当時、オープンしたばかりの「ラフォーレ原宿・小倉」を見るためだった。大貫卓也さんがアートディレクションを担当していた頃で、その最新のグラフィックが小倉で見られる!とワクワクした。Helvetica Boldで打ち出した「Laforet」の文字がとてもカッコよくて興奮したのを覚えている。
ワンフロアずつゆっくり店内を見ていくと、書店があった。書店は特に念入りにチェックしておきたい場所だ。そこで素晴らしい本を見つけた。なんとホックニーの最新の本が並んでいたのだ。「デイヴィッド・ホックニー ―僕の視点 芸術そして人生―」(1993)というタイトルの本で、個人的な体験と芸術家としての試みについての詳細な叙述によって構成されており、現代作家の著作としてはかつてない率直な内容の本となっている。彼の創造力はテクノロジーと遊び心を融合させ、ひらめきを哲学の域にまで高めている。薄給の身としては、とても高価な本だったけど僕は躊躇することなく買った。調べてみたら僕の誕生日の翌日のことだった。
さて、はるばる福岡からライブを見るために小倉にやってきたわけだけど、ライヴが始まっても心ここに在らず。途中、何度も会場を出てロビーでタバコを吸う始末。どうにもライブに身が入らない。とうとう友人に「家に帰りたい」と打ち明けた。ホックニーの本を早く読みたくて、とにかく家に帰りたかったのだ。こんな子供みたいなことを言う僕を友人は許してくれて帰路に着いた。
こんなにホックニーの絵に魅了されているのに、僕は一度も原画を観たことがない。海外で美術館に行ったときも、ホックニーの絵はなかった。でもとうとう来年の夏、東京にやって来るのだ。それまでは何をしても「心ここに在らず」だろうなぁ笑